台南2日目のハイライトは烏山頭ダムである。
隆田駅からバスで烏山頭ダムへ
烏山頭ダム、ダムということでもっと山奥にあるのかと思っていたのだが、嘉南平野の奥まったところに位置しており、台鉄の駅からそう遠くない場所にある。といっても歩いて行けるほど近くもなく、台鉄の隆田駅からタクシーに乗って1時間半ほどで周遊するというのが個人旅行者には一般的で、よくブログやSNSでも紹介されており、時間も手軽なので自分も最初はこれで行こうかと思っていた。
が、このタクシー、コロナ禍の間に値上がって今は1000元するらしい。円安もあいまって1時間半で5000円弱か…と思うと、1人旅としては結構な出費である。
良く調べてみると、本数は少ないものの烏山頭ダムには台鉄の各駅からバスが何系統か走っており、このバスを組み合わせるとバスだけで行けそうだったので、今回はバスで行くことにした。なかなか乗るのはハードルの高い海外のバスではあるが、台湾のバスはどこでも悠遊カードさえあればタッチするだけで乗れるし、田舎であるが故に本数も少ないので違う系統に乗り間違うこともないだろう。
ということで鐡道ホテルを7時半過ぎにチェックアウトし、台南駅7:52発の普通列車に乗り込む。鐡道ホテルは駅前なので、台鉄に乗るには実に都合が良かった。
30分ほど乗って隆田駅で下車。そのあたりの日本の地方都市のような駅前であった。何台か黄色いタクシーが待機しており、これに乗れば楽々観光できるのだが、自分は右側のバス停へ。
8:45発の橘10系統台南芸術大学行に乗車。バスはマイクロバスであった。この橘10系統でダムに行くのは1日4本しかなく、台南から行くのであればこのバスに乗るのがベストだと思う。本数は少ないけどちゃんとバス停には時刻表、そしてLEDの発車案内まであり、スマホアプリでどこ走っているのかわかるので、乗るのはそんなに大変ではない。
隆田駅から3人乗り込んだのだが、途中の工業地帯のバス停で2人降りてしまい、ダムまで行ったのは自分1人だった。なかなか寂しい乗車率で、行く末がちと心配だ。
道はすいていて、15分ちょっとで烏山頭水庫バス停に到着。順調な滑り出しで何より。
烏山頭ダムの大きさと八田與一氏の功績に感動
烏山頭ダム周辺は烏山頭水庫風景区と銘打った観光スポットとして綺麗に整備されているのだが、今はシーズンオフなのか日曜だというのに閑散としていた。
車で入ることを前提にした広いゲートに向かい、入場料を払う。本当は100元なはずなのだが、なぜか半票の60元しか請求されなかった。バスで来たら割引でもあるのだろうか。
チケットの裏面には地図が書いてあったが、園内は車を前提とするほど非常に広く、歩いている人はほとんどいない。幸い今日は20度そこそこの穏やかな天気だったので、歩くのは苦ではないが、夏場だと結構しんどそうである。1月にここに訪れたのは正解だった。
まず第一に向かったのは八田技師紀念室。
写真NGだったので写真がないのだが、八田與一技師が烏山頭ダムで果たした功績が日本語も交えてわかりやすく展示している。往時の生活の様子がわかる写真が沢山飾られており、大変参考になった。
紀念堂は旧放水口の脇にある。今は渇水期でもあり水の流れもなく穏やかだが、ここは終戦後、八田與一の妻、当代樹が夫が造ったダムの場所から離れたくなかったのか、身を投げた哀しい場所でもある。どんな思いだったのだろうか…。
放水口の脇にある発電所の名前は「八田水力発電所」であった。本当に八田與一が台湾の人たちに慕われていたことがよくわかる。
工事で犠牲になった人たちを祀った殉工碑に敬礼。八田與一の意向により、日本人・台湾人分け隔てなく犠牲者の名前が書かれているという。
いよいよダムに向かうことにしよう。
烏山頭ダムは日本でよく見かけるコンクリートで固めたダムではなく、極力コンクリートを使わない形で設計されたダムであり、そのため、今でも十分現役で稼働しているのだそうだ。見た感じは、大きなため池のように見えるが、この写真のようにその土盛りは非常にスケールが大きい。
いやはや、実にスケールの大きなダムである。想像以上の大きさだ。ただこれでもごく一部しか見通せてないところからも、いかに烏山頭ダムが大きいかがよくわかる。これだけの建造物を戦前に作り上げるなんてすごいものだ。
対岸の入り組んだ湖岸が島のように見えて実に美しい眺めを作っている。時折地元の人たちがジョギングしたり、観光客が自転車でサイクリングを楽しんだり、犬がとことこ歩いていたり…。穏やかでのどかな雰囲気が最高だったな。
パノラマで撮ってみました。
さて八田與一技師の像にご挨拶へ行くとしよう。
日本式の灯籠が目印ですぐに場所はわかったが、思ったよりもこじんまりとした場所であった。派手さを嫌っていたという八田與一氏らしい雰囲気だ。
今日は特に命日でも何でもない日であるが、八田與一像やその後ろにある夫妻の墓には花やお供え物があり、綺麗に管理されているのは嬉しい限り。地元の人もここを通り過ぎるときはかならず挨拶をしていくようである。自分もここで氏の功績に感謝の挨拶をする。台湾9回目にして、ようやくここに来ることができ感無量であります。
八田與一氏の像からは、氏が力を入れて作り上げたダムを望むことができる。氏の功績や台湾の人たちの思いに恥じぬよう、我々日本人はがんばっていかねばならないなと改めて感じた次第である。
八田與一紀念園区へ
以上で烏山頭ダムの主だった見どころは終わりだが、近年烏山頭ダムに近接した場所に八田與一紀念園区が整備され、氏が住んでいた建物が復元されているので、そちらへ向かうことにする。
八田與一紀念園区は烏山頭水庫風景区の入口から600mほど北に歩いて一度出口を出て、道路を横断したところに入口がある。風景区のチケットを保持していれば無料なのだが、風景区側の入口は無人で入れず、必ず風景区→紀年園区という順で巡る必要があるようだ。最初、紀念園区近くで自転車を借りて先に紀念園区行こうかと思ったりしてたのだが、危なかった。このあたり、googleストリートビューとかでは判別がつかず、要注意である。
復元された八田邸は和洋折衷の建物で、八田與一らしい華美でもなく落ち着いた造りであった。
1935年の家族写真。真面目そうな一家という感じであった。
庭には当代樹氏の像が飾られていた。
紀念園区の前の道は「八田路」という。本当に慕われているのですね…
ここまでちょうど1時間半。非常に充実した滞在であった。タクシーの標準コースと比べると、烏山頭ダムの南側に位置する天壇や今の放水口にかかる吊り橋はさすがに遠くて行けなかったけど、1月の穏やかな気候にも助けられ主要なスポットは全て徒歩で巡ることができた。これならタクシー使わなくてもバスで十分ではないかしら。
バスを乗り継ぎ嘉義から台北へ
さてあとは復路、きちんと台鉄に乗り換えて台北に向かうだけです。
復路は行きのバス停の一つ手前、嘉南里バス停から10:31発新営行黄1系統に乗ります。ここのバス停はポールしかないが、通るバスは限られているので乗り間違いはまずない。台湾のバス停はどこもポールがちゃんと建っており、このあたりはよくポールすらない日本のバスよりもよほどしっかりしている。
今度のバスは大型でEVと思われる最新のタイプであった。乗客も多かった。
終点の新営で台鉄に乗り換えられるのだが、途中の林鳳営駅でも台鉄に乗り換えられるのでここで下車。ここの乗り継ぎは時間が数分しかなくちょっとどきどきしたのだが、無事乗り換えることができた。林鳳営駅は日本統治時代の駅舎が今も大事に使われている。白い駅舎とヤシの樹がいかにも南国らしい穏やかな雰囲気で、5月に訪れた香山駅と対比すると面白い。
このあたりからだと台南市街地よりも南に位置している高鉄台南駅まで戻るよりも高鉄嘉義駅から新幹線に乗った方が速いので、北上します。
林鳳営10:58発の普通電車に乗り、次の新営駅で追い抜く11:11発の自強号に嘉義までチョイ乗り。台鉄では70km以内であれば追加料金なく悠遊カードだけで自強号に乗ることができるので非常に便利だ。
このPPタイプのE1000系に乗るのは2006年に九份へ行くときに乗って以来18年ぶりだ。最近3000系の新型が出てE1000系は徐々に数を減らしていくはずなので、わずかな時間とはいえ乗車できたのはラッキーだった。
11:26に嘉義駅着。駅裏手のBRT乗り場からバスに乗って高鉄嘉義駅へ移動する。嘉義は台鉄による連絡路線すらないので不便だ。ただこの乗り換えを入れても台北到着は自強号に乗り続けるよりも速いんだよね。さすが台湾新幹線である。
12時過ぎに高鉄嘉義駅着。予約している台湾新幹線の列車まで1時間ほどあったので、駅弁を買ってベンチでお昼を食べる。
嘉義13:08発の台湾新幹線で台北へ。事前に外国人向け2割引き乗車券で指定席を確保しておいたのでらくらく移動である。
台北には14:33着。気温は17度とそこまで低くはないが、1月の台北らしくどんより曇り空で、風が強くて寒かった。南部の穏やかな気候が懐かしいな。
なんとバス代がタダ!
ということで、バスで巡る烏山頭ダム訪問、無事に完遂したのだが、悠遊カードの記録を見返したところ…。
なんと今回乗ったバス代がタダだったのである。
どうも台南エリアのバスは、悠遊カードで8kmまでの乗車だと運賃のかからないキャンペーンをやっているらしい。下記のサイトでは2023年12月までとなっていたが、まだ適用されているようだ。
普通バスで8km以上も乗らないので事実上バスにタダで乗り放題だとね。
嘉義駅から高鉄嘉義駅までのMRTも台湾新幹線の切符を持っていれば無料なので、今回全然交通費がかからなかった。タクシー代1000元に比べると天と地の差だ。これはバジェットトラベラーにはぜひおすすめしたいところであります。
ただ、今回悠遊カード結構使うと思っていっぱいチャージしたのに、全然残額が減りませんでしたわ。なので、また台湾行かないとですな。