平泉を見学した後、猊鼻渓へと向かった。
猊鼻渓とは、北上川の支流である砂鉄川が刻む、高さ100mもの断崖が2kmも続く渓谷である。
大船渡線が近くを走っているので、名前くらいは知っているが、どんなものか楽しみである。
シーズンオフということで、人影はまばらであったが、我々8人のほかに2組ほど集まって、15人ほどで出発。
今日の船頭さん、千葉船頭は猊鼻渓初の女性船頭さんだそうだ。
後で調べてみたら、何と2児のママさんだそうで。正直そんなふうにはちっとも見えなかった。
元々事務をやられていたということだが、一念発起して船頭さんになられたとか。
そういう方の便に乗れたというのはラッキーであった。
さてこの船は船頭さんの竿一本で、2km先までまず川を遡っていく。
結構重労働なはずであるが、千葉船頭は見事な竿さばきでこなし、なおかつ周辺のポイントを説明していく。並大抵の努力ではできないはずである。少なくとも私じゃできんなあ。
周囲は断崖が続く。まだ春に成り立ての頃だったので、色合いはまだまだであったが、素晴らしい景観であった。きっと今頃は美しい新緑が目を楽しませてくれていることだろう。
ただひとつ気になったのは、こんな断崖が続いているのに、この船が進むところだけは、流れがおだやかなのである。前後の川の流れや浸食作用を考えるに、このような水の流れが自然に出来るとは考えづらい。船の終着点にしたって、あの断崖の下に緩やかな砂地ができるとは思いがたい。
きっと観光開発のために流れを調整したんだろうなあと思うのだが、ぱっとネットで見た限りではその記述は見つからなかった。不思議である。
まあ、仮に人工のものだったとしても、この船に乗っている間は、水の流れと船頭さんの解説以外はほとんど音のしない、静かなひと時であり、それは普段の忙しさを忘れさせるには十分であった。
思ったよりもずっと良い場所であったと思う。
上流まで遡り、名前の由来となった大猊鼻岩を見て、やっと川下りに入る。
船頭さんの歌う、「げいび追分」が、辺りに響き渡る。断崖で歌がこだまとなって跳ね返るのがとても印象的だ。
美しい音色にうっとりするが、竿さばきをしながら歌うというのは大変だろうなあと思う。
ただ、すでに訪問8度目というベテラン?の伯母さんいわく、息継ぎの部分とか男性船頭の方がうまい、とのことであった。まあそれは仕方ないところだろうけど、そう言われてみると、男性船頭さんの力強いだろう「げいび追分」というのも聞いてみたいなあ、と思った。
心身ともにリフレッシュした90分間の船旅であった。